最近ネットを見てると「Git Worktreeが便利」という内容のものを見かけたので、調べた結果を覚書。
Git Worktreeとは?
Git Worktreeは、一つのGitリポジトリで複数の作業ツリー(ワーキングディレクトリ)を管理できる機能だ。従来のGitでは一つのリポジトリにつき一つの作業ディレクトリしか使えなかったが、Git Worktreeを使うことで、同じリポジトリの異なるブランチを複数のディレクトリで同時に作業できる。
どういう時に使う?
- 機能開発ブランチで作業中に緊急バグ修正の依頼が来た
- プルリクエストのレビューをしたいが、作業中のコードをコミットしたくない
- 複数のブランチを並行して開発・検証したい
Gitは同一ローカルリポジトリで作業を行う関係上、このような場面ではgit stashやgit commitを使って現状を保持してからブランチを切り替える工程が必要になる。
こういった時に、Git Worktreeを使えば、複数のブランチを同時に、かつ安全に作業できるようになる。
従来の問題点
上記にもある通り、通常のGitワークフローでは、以下のような問題があった:
# 作業中にブランチを切り替える際の典型的な手順 git add . git stash push -m "一時保存" git checkout hotfix-branch # バグ修正作業 git add . git commit -m "Fix urgent bug" git checkout feature-branch git stash pop
この方法の問題点:
- 作業の中断が必要
- stashの管理が煩雑
- コンテキストスイッチが頻繁
- 一時的なコミットによるコミット履歴の汚染
Git Worktreeによる解決
Git Worktreeを使えば、これらの問題を解決できる:
# hotfix用のワークツリーを別ディレクトリに作成 git worktree add ../myproject-hotfix hotfix-branch # hotfixディレクトリで作業 cd ../myproject-hotfix # バグ修正、コミット、プッシュ # 元の作業ディレクトリに戻る cd ../myproject # 作業中の状態がそのまま残っている
Git Worktreeの仕組み
Git Worktreeは、リポジトリの.git
フォルダを共有する形で新しい作業ディレクトリを作成する。
myproject/ ├── .git/ │ ├── worktrees/ │ │ ├── myproject-hotfix/ │ │ │ ├── HEAD │ │ │ ├── index │ │ │ └── gitdir │ │ └── myproject-feature/ │ └── ... ├── src/ └── README.md myproject-hotfix/ ├── .git (ファイル:../myproject/.git/worktrees/myproject-hotfix を指す) ├── src/ └── README.md
各ワークツリーは独立しており、以下の特徴がある:
基本的な使い方
なにはともあれ、実際にやってみないと分からないので、作ってみる。
個人的に作成した日報ツールがあるのでそれで実験。
0. 事前準備
ブランチを作成し、未コミット状態のファイルを作っておく。 この状態でmainブランチに切り替えると。
このようにエラーが発生する。 本来なら、ここからgit stashやgit commitを行う。
1. ワークツリーの作成
ワークツリーは以下のコマンドで作成できる
# 既存ブランチをワークツリーに追加 git worktree add <パス> <ブランチ名>
実際に作成してみる。
出来たっぽい。
2. ワークツリーの確認
git worktree list
出力例:
/Users/user/myproject a1b2c3d [main] /Users/user/myproject-develop e4f5g6h [develop] /Users/user/auth-feature i7j8k9l [feature-user-auth]
実行前のローカルリポジトリ
実行後のローカルリポジトリ
新しくフォルダが作成された。
作成されたフォルダの中を見ると、確かにmainブランチの内容になっている。
今回はローカルリポジトリ内に作ってしまったので変なフォルダ構成になってしまったが、実際に使う時は作業中のリポジトリと異なる場所に作成すれば問題無いと思われる。
ちなみにこのWorktreeだが、Cursorだと便利に切り替えれる機能が存在している。
Cursorの拡張機能から「Git Worktree Manager」と検索すると、以下のようなツールが表示されるので、これをインストールする。
これを利用すると、このようにワークツリーが一覧形式で表示される。
このmainを選択すると、新しいウィンドウでワークツリーが開かれるので、スムーズに別作業に取り掛かれる。
3. ワークツリーの削除
作業が終わったワークツリーについては、以下のコマンドで削除が可能となっている。
# 手動でディレクトリを削除した場合 rm -rf ../myproject-develop git worktree prune # 必須のクリーンアップ
# Git経由で削除(Git 2.17以降) git worktree remove ../myproject-develop
実際の活用シーン
シーン1:緊急バグ修正対応
機能開発中に緊急のバグ修正依頼が来た場合:
# 現在の作業:feature-aブランチで新機能開発中 # 多数のファイルを変更済み、まだコミットしたくない状態 # 緊急修正用のワークツリーを作成 git worktree add ../urgent-hotfix main # 修正作業ディレクトリに移動 cd ../urgent-hotfix # バグ修正 vim src/buggy_file.js git add . git commit -m "Fix critical bug in payment system" git push origin main # 元の作業に戻る cd ../myproject # 作業中の変更がそのまま残っている
シーン2:プルリクエストレビュー
作業中にプルリクエストのレビュー依頼が来た場合:
# PRブランチを取得してワークツリーに展開 git fetch origin pull/123/head:pr-123 git worktree add ../review-pr-123 pr-123 # レビュー作業 cd ../review-pr-123 # コードレビュー、動作確認 # レビュー完了後、クリーンアップ cd ../myproject git worktree remove ../review-pr-123 git branch -D pr-123
シーン3:マルチブランチ並行開発
複数の機能を同時開発する場合:
# 各機能用のワークツリーを作成 git worktree add -b feature-auth ../auth-feature main git worktree add -b feature-payment ../payment-feature main git worktree add -b feature-analytics ../analytics-feature main # ディレクトリ構造 # myproject/ (mainブランチ) # auth-feature/ (feature-authブランチ) # payment-feature/ (feature-paymentブランチ) # analytics-feature/ (feature-analyticsブランチ)
最近はAIエージェントで並列開発を行う事が多いらしく、その中でGit worktreeが注目されているとの事。
参考↓
AIエージェントで並列実装なら必須技術! Git Worktree を理解する
注意点とベストプラクティス
1. 同一ブランチの重複チェックアウト不可
# エラーが発生する例 git checkout develop # fatal: 'develop' is already checked out at '/path/to/myproject-develop'
この場合は:
git worktree prune # 不要なワークツリー情報をクリーンアップ git checkout develop # 再度試行
2. ワークツリーの適切な管理
- 命名規則の統一:ブランチ名と同じ、または関連性のある名前を使用
- 定期的なクリーンアップ:不要なワークツリーは速やかに削除
- チーム内でのルール策定:ワークツリーの使用方針を共有
3. ESLintなどの設定ファイル競合への対処
親ディレクトリに設定ファイルがある場合、ワークツリーで問題が発生することがある:
# 一時的に設定ファイルを退避 mv .eslintrc.js .eslintrc.js.bak mv node_modules node_modules.bak # ワークツリーで作業 cd feature-worktree yarn lint # 正常に動作 # 元ディレクトリに戻って設定ファイルを復元 cd .. mv .eslintrc.js.bak .eslintrc.js mv node_modules.bak node_modules
4. .gitignoreされたファイルの取り扱い
ワークツリーには.env
ファイルなどの無視されたファイルは含まれないため、必要に応じて手動でコピーする:
# .envファイルをワークツリーにコピー cp .env ../feature-worktree/.env
Git WorktreeとGit Cloneの使い分け
「複数のブランチで同時作業」という同じ目的でGit Cloneも使用できる。
ここでは、Git WorktreeとGit Cloneの違いについて記載する。
主な違い
項目 | Git Worktree | Git Clone |
---|---|---|
ディスク使用量 | 少ない | 多い |
初期セットアップ | 数秒 | 数分(大きなリポジトリ) |
リモート同期 | 1回のfetchで全体に反映 | 個別にfetch/push必要 |
独立性 | 共有(障害時影響あり) | 完全独立 |
同一ブランチ | 同時利用不可 | 同時利用可能 |
ツール対応 | 限定的 | 完全対応 |
使い分けの指針
Git Worktreeが適している場面:
- 緊急バグ修正での一時的なブランチ切り替え
- プルリクエストの短期レビュー作業
- ディスク容量を節約したい場合
Git Cloneが適している場面:
- 長期的な実験やプロトタイピング
- 同一ブランチでの異なる設定での作業
- 完全に独立した環境が必要な場合
まとめ
Git Worktreeは、現代の複雑な開発ワークフローにおいて非常に強力なツールだ。以下のようなメリットがある:
主なメリット
- 作業効率の向上:ブランチ切り替えによる作業中断がなくなる
- ストレージ効率:リポジトリの複製よりもディスク使用量を節約
- 安全性の向上:作業中の変更を誤って失うリスクが減る
- 並行作業の実現:複数のタスクを同時進行できる
適用シーン
- 緊急バグ修正と機能開発の並行作業
- プルリクエストのレビュー作業
- 複数機能の同時開発
- リリースブランチとの比較検証
Git Worktreeを活用することで、より効率的で安全な開発環境を構築できる。特に複数のタスクを並行して進める必要がある現代の開発現場において、より効果を発揮するだろう。
ただし、Git Worktreeにもデメリットは存在している。これを踏まえて適材適所で利用していきたいと思う。